母、時恵さんの言葉

 智子がこの世に生を受けて31年、いろんな人の励ましとご指導により、今日という日を迎えることができました。全ての親が思うように、この子が持っているものは何か、この子の才能は…そんな疑心暗鬼の中で出会ったのが、障害者(児)絵画教室でのアートでした。
 智子が描く絵は『心の情景』です。モチーフとの『心の物語』です。その事が少しでも皆様の心に伝われば幸いだと思っています。
 智子が障害者(児)の絵画教室(福祉センター)に通い始めた頃は、今までとは違っている周囲の雰囲気に戸惑い、パニックになり泣き出すことも度々ありました。当初、智子は絵を描くことよりも、その場の雰囲気に慣れる事で精一杯のようでした。このような状態が3ヶ月ほど続いたでしょうか。そんな中で、石田先生と絵を描く子供たちとのやりとりの場面が印象的でした。特に石田先生の励ましと、ほめ言葉、「すてきだね。」「上手、上手。」「うまいじゃないの。」「おもしろい絵だね。」…これが智子の「自分もやってみよう!」という動機になったことは確かです。
 初めてクレパスをにぎり、画用紙に絵を描き始めました。絵といっても色も形も意味もないようなものです。しかし、石田先生は、すかさず、「すごいじゃないの。」「描けたじゃないの。」「おもしろいね。」と、ほめ言葉をかけられたのです。智子は学校生活12年間のうち、4〜5回描いたでしょうか。描けばみんなに笑われ、下手だと馬鹿にされてきたのです。そんな不安や恐怖心でいっぱいの智子の心を開放してくださったのが石田先生です。それ以来、堰を切ったかのように絵を描き始めました。

 智子の描く絵は心の中の情景です。モチーフ(対象物)は植物や動物、昆虫類です。
『対象物との心の交流の物語』これが智子の作品であると思います。
 ひとり言が聞こえてきます。「まってや、まって!餌がないと、まんまんちゃんになる…」と言って、自分の口をパクパクさせて、「はい、どうぞ。」身振りや手振りのジェスチャー。描き上げると両手を高々と上げてバンザイをします。そんな様子を見ていると私はドキッとします。彼女が投げかけてくる数々の問いかけ。それは人間本来のあり方を私に教えてくれているような気がします。
 智子は描く前に何度となくその場に足を運びます。2時間でも3時間でも対象物を観察し、頭の中に入れてから画面に構成していくようです。観察が足りない時は、まだお友達になっていないから描けないと言って、もう一度見に行くと催促をします。こんなことも智子の作品作りの特徴なのかもしれません。鼻歌まじりでひとり言をし、穏やかな表情で制作に取り組む娘の姿が一番私のほっとする時であり、親子の至福の時間なのかもしれません。

 今、娘に「あなたの宝物は?」と聞いたら、すぐに「絵を描くことです。」と答えるでしょう。「こんな絵を描かせたい」と写真を見て思うのは親ばかりです。本当は石田先生のように智子の心の世界を自由に伸び伸びと描けるよう支えていかなければいけないのではないでしょうか。先生の魔法には脱帽です。

平成17年7月吉日
隅野 時恵
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